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東京地方裁判所 昭和57年(特わ)1908号 判決 1982年10月20日

裁判所書記官

安島博明

本店所在地

東京都港区東麻布二丁目六番一一号

京浜株式会社

(右代表者代表取締役田川庸雄)

本籍

東京都港区東麻布二丁目六番地の二四

住居

同世田谷区祖師谷五丁目三二番三〇号

会社役員

田川庸雄

大正一二年七月六日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官江川功出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人京浜株式会社を罰金二〇〇〇万円に、

被告人田川庸雄を懲役一年に

それぞれ処する。

被告人田川庸雄に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人京浜株式会社(以下「被告会社」という。)は、東京都港区東麻布二丁目六番一一号に本店を置き、ベアリング、油圧機器及び小型電動機の販売等を目的とする資本金一、〇〇〇万円の株式会社であり、被告人田川庸雄は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人田川は、被告会社の業務に関し法人税を免れようと企て、架空仕入を計上し、たな卸商品の一部を除外したほか、有価証券の売買益を除外するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五三年四月一日から昭和五四年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が六、一六七万四、八一七円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、昭和五四年五月三〇日、東京都港区西麻布三丁目三番五号所在の所轄麻布税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二、八六七万九、四九八円でこれに対する法人税額が九四七万九、九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五七年押第一三三七号の1)を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額二、二六六万六、〇〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)と右申告税額との差額一、三一八万六、一〇〇円を免れ、

第二  昭和五四年四月一日から昭和五五年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億二、〇四一万六、三七三円(別紙(二)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、昭和五五年五月三〇日、前記麻布税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四、四六一万二、五八八円でこれに対する法人税額が一、六〇一万七、三〇〇円である旨の虚為の法人税確定申告書(前同号の2)を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額四、六三三万三、四〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)と右申告税額との差額三、〇三一万六、一〇〇円を免れ、

第三  昭和五五年四月一日から昭和五六年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が九、九四六万四、八〇一円(別紙(三)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、昭和五六年五月二九日、前記麻布税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四、四一一万二、六〇八円でこれに対する法人税額が一、五六一万五、七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同号の3)を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額三、七七五万六、五〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)と右申告税額との差額二、二一四万〇、八〇〇円を免れ、

たものである。

(証拠の標目)

一、被告人田川庸雄の当公判廷における供述

一、被告人田川庸雄の検察官に対する供述調書二通

一、収税官史の被告人田川庸雄に対する質問てん末書三通

一、佐藤守、田川龍次、土屋實及び河内通の検察官に対する各供述調書

一、検察官、被告会社、被告人田川及び被告人らの弁護人萩原四郎作成の合意書面

一、麻布税務署長作成の証明書

一、東京法務局港出張所登記官作成の登記簿謄本及び閉鎖登記簿謄本(但し、商号・資本欄のみ)各一通

一、押収してある法人税確定申告書三袋(昭和五七年押第一三三七号の1ないし3)

(法令の適用)

被告人田川の判示第一及び第二の所為は、いずれも、行為時においては昭和五六年法律五四号脱税に係る罰則の整備等を図るための国税関係法律の一部を改正する法律による改正前の法人税法一五九条一項に、裁判時においては右改正後の法人税法一五九条一項に該当するが、犯罪後の法令により刑の変更があったときにあたるから、刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑によることとし、同第三の所為は、法人税法一五九条一項に該当するところ、いずれも所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により、最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をし、その刑期の範囲内で同被告人を懲役一年に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

さらに、被告人田川の判示各所為は被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については、判示第一及び第二の各罪につき、右昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一六四条一項により、右改正前の法人税法一五九条一項の罰金刑に、また、同第三の罪につき、法人税法一六四条一項により、同法一五九条一項の罰金刑にそれぞれ処せられるべきところ、いずれも情状により同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により、各罪所定の罰金を合算し、その金額の範囲内で被告会社を罰金二〇〇〇万円に処することとする。

(量刑の事情)

本件は、判示のとおり、被告人田川が、被告会社の業務に関し、三事業年度にわたり、合計一億六、四〇〇万円余の所得を秘匿し、合計六、五〇〇万円の法人税を免れたという事案である。その所得申告率は約四一パーセントに過ぎず、法人税ほ脱率は約六一パーセントに及んでいて芳しくなく、犯行の動機も、不況時に備えて利益を蓄積しておこうとしたものであって、格別斟酌すべきものとは思われない。また、犯行の手段、方法は判示のとおりであり、被告人田川が、部下に指示して、たな卸の帳簿等を改ざんさせるなどしているのであって悪質であり、こうした事情を考慮すると、被告人らの本件刑事責任は、決して軽いとはいえない。

しかし、被告人田川は、現在では自己の軽率な行為を反省し、今後は二度とかかる不祥事を起こさない旨述べ、修正申告を行って諸税を完納しているので、その他被告人田川に前科前歴がないことなど有利な事情を考慮し、主文のとおり量刑する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小瀬保郎 裁判官 原田敏章 裁判官 原田卓)

別紙(一) 修正損益計算書

京浜株式会社

自 昭和53年4月1日

至 昭和54年3月31日

<省略>

<省略>

別紙(三) 修正損益計算書

京浜株式会社

自 昭和55年4月1日

至 昭和56年3月31日

<省略>

別紙(二) 修正損益計算書

京浜株式会社

自 昭和54年4月1日

至 昭和55年3月31日

<省略>

別紙(四) 税額計算書

京浜株式会社

<省略>

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